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THD+N特性 ダイナミックレンジ特性 周波数特性 SN比 (勉強用)

THD+N特性

THD+N特性は、正確には「Total Harmonic Distortion + Noise(全高調波歪み率+雑音)特性」で、「歪み率」や「高調波歪み」といった表現が使われるケースもある。オーディオ特性の中でも最も音質との相関が高く、非直線性に起因する精度を表わす重要な特性である。
 再生信号は素子/回路伝達特性の非直線性によって、2次、3次、4次……の高調波が発生する。同時に熱雑音やショットノイズなどの雑音も加わることになる。これら高調波の総合(通常は7次~9次程度まで)である全高調波(THD)と雑音(N)との総合がTHD+Nという指標で定義される。図1にTHD+N特性のスペクトル表示での概念を示す。


 

 デジタルオーディオでは、測定帯域を20kHzに帯域制限する。実際には、20kHzまでを通過帯域とし、24kHz以上の周波数では-60dBの減衰特性を有する測定用LPFを用いて測定するのが標準である(20k~24kHzの間はLPFの過渡的な遷移領域)。このLPFはデジタルオーディオ特有の――アナログオーディオでは必要としない――帯域外のサンプリングスペクトラムとΔΣ変調ノイズを完全に除去することが目的である(前回の図6を参照)。これは後述するダイナミックレンジ特性や、S/N比特性の測定にも適用される。
 THD+N特性は代表値として、周波数1kHz、出力0dB(フルスケール)におけるものがカタログなどに記載されるのが一般的であるが、対信号周波数や対信号レベルをパラメーターにした評価も重要である。また、音質との相関や素性を把握するにはTHD+N総合値におけるTHD成分とN成分の比率(歪み感とノイズ感の聴感上の違いも存在する)も重要になる。

デジタルオーディオ特性の基本 ~THD+N/ ダイナミックレンジ/ SN比/ 周波数特性~ 
図1 THD+N特性のFFTスペクトラム例

ダイナミックレンジ特性

ダイナミックレンジ特性は、信号レベル=-60dBFS出力におけるTHD+N値(20kHz、LPFと「Aフィルタ」という聴感補正フィルタを併用)をD(dB)とすれば下式で求められる値で定義、測定される。
ダイナミックレンジ(dB)=D+60
 例えば-60dBFS(フルスケール)におけるTHD+N値が-40dBであれば、ダイナミックレンジ(DR)=40+60=100(dB)となる。ダイナミックレンジ特性は、小信号レベルのTHD+N値に相当するので、実際に信号が出力されている状態における小信号の質、雑音レベルを表わす。THD+N特性と同様に、重要な特性である。なお、ダイナミックレンジという表現は他の意味でも用いられるので混同しないことが肝要である。
 工業/産業計測でのダイナミックレンジ特性は、FFTテストにおけるスプリアス・フリー・ダイナミックレンジが代表的特性である。後述するS/N比をダイナミックレンジと表現するケースや、デジタル量子化分解能ビットに対する理論特性を理論ダイナミックレンジと表現するケースもあるので、注意が必要だ。

デジタルオーディオ特性の基本 ~THD+N/ ダイナミックレンジ/ SN比/ 周波数特性~ 

周波数特性

現代のデジタルオーディオ製品においては、周波数特性もその表現と定義が統一されていないので、一般消費者に混乱や誤解を与える一因となっている。アナログオーディオにおける周波数特性は、オーディオ再生回路のフラット応答帯域、例えば、20Hz ~20kHz(±1dB)などで規定される。一方でデジタルオーディオでは、再生フォーマットの理論帯域幅を表示したものがあり、混乱の原因になっている。すなわち、理論帯域幅を再生周波数として表現しているケースがある。

 例えば、fs=192kHzの理論帯域幅は96kHzであるが、これを再生周波数として規定していることがある。しかし実際には、機器のポストLPF特性によって帯域が制限されている場合がほとんどであり、ポストLPFの特性を周波数特性として規定すべきである。このような誤解を与える表現は、SACD(Super Audio CD)プレーヤーでも見掛けられ、「再生周波数:100kHz」などと表示されている機器がある。しかし、これもSACD規格では50kHzにおいて-3dB となるポストLPF特性は規格化されているので、「再生周波数:100kHz」という表記は誤解を与えると言えよう。実際のポストLPFの周波数特性を表記すべきである。
 
 図4に理論帯域幅と周波数特性の関係を示す。理論帯域幅faはPCM信号のサンプリングレート・fsで決定され(fa=fs/2)、オーディオD-Aコンバータ出力としては、これは確かに再生可能な周波数である。実際には、DAC後段にはポストLPFが接続されており、当該ポストLPFの周波数特性(-3dBカットオフ周波数・fc)が再生帯域としての周波数特性となる。そしてLPF回路のアーキテクチャ(フィルタタイプ、次数等)で決定される帯域内リップルが規定値内となる周波数がLPFの信号通過帯域fbである。整理しよう。
再生信号帯域:デジタル信号のサンプリングレート・fsによる理論信号帯域(図中のfa)
規定例として、再生信号帯域:CDDA=20kHz、DVD=40kHz(ここでは理解のしやすさを優先してfsとfaの関係だけを説明したが、実際にはDAコンバーター内部のオーバーサンプリング・デジタルフィルタの特性で決定される)。
周波数特性-1:-3dBカットオフ周波数(図中のfc)
規定例として、周波数特性:22kHz(-3dB)
周波数特性-2:規定リップル内信号通過帯域(図中のfb)
規定例として、周波数特性:20Hz~20kHz(±0.5dB)。
正確な特性表示には上記の全てが規定されるべきである。実際には残念ながら、上記のいずれかだけ表示するケースが多いのも事実である。


デジタルオーディオ特性の基本 ~THD+N/ ダイナミックレンジ/ SN比/ 周波数特性~ 
図4 周波数特性の概念

SN比

 S/N比は、「Signal to Noise Ratio」。日本語表示では信号対雑音比で、単純にフルスケール信号Sと無信号時のノイズ(雑音)Nとの比であり、下式で定義される。
SNR=20Log(S/N)(dB)
 測定には20kHz・LPFとAフィルタが用いられる。ダイナミックレンジ測定信号と異なり無信号時のノイズであるので、通常はアナログ回路の総合的な熱雑音やアナログ回路に回り込んだ周辺ノイズとの総合がノイズNとなり、量子化ノイズNqの影響は受けない。従って、16ビット量子化/24ビット量子化に関係無いものとなる。ただし、サンプリングレート・fsに対しては動作速度が高速になるに従い、スイッチングノイズなどの影響も受ける。コンバーターICモデルで異なるのは当然であるが、1~2dB程度の特性変化がある。

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